中級・上級のレベル


いよいよもっとも困難な中級上級レベルを説明します。初級レベルでは「事実と経験」を話すことが目標でした。この二つに話すエリアを限定している限り、日本語の意味分解を注意すること以外は、英語と日本語の表現様式にはさほど大きな違いが無いので、比較的に早く伸びる事ができるレベルでした。

しかし、「but because and ,so then」などの接続詞で簡単な短文を結びつけて英語を話す方法をマスターした初級の生徒さんも、次第に「自分が日本語で普通に話している気持ちや意見、 動機」などを英語でも表現したいという欲求が強まってきます。中級上級レベルでは「事実や経験」以外のエリア、つまり「動機、意見、気持ち、好み、印象」を分かりやすく適切に話すことが目標になります。

ですが、この領域こそマスターがもっとも難しく多くの人が困難に直面し、方法を間違えると何年も伸びがなく停滞する領域なのです。この難しさがどういうものなのか見てみましょう。

この難しさの根源は、実践的な英会話の特徴である、1)徹底した意味分解、2)発話の徹底した論理構成、の2つを英会話で実現するために、普段話している日本語の発話そのものから変化させて行かねばならない、ということにあります。つまり、英語に簡単になるような日本語へと発話の構造が変化すると英会話も一気に上達する、ということなのです。これが前のページで「英会話が実際にどこまで伸びるかは自分がどの程度の日本語を普通話しているか、また、話す力があるかに依存している」と書いたことの意味です。

一方、多くの中級上級を目指す方には、「ボキャブラリー、構文、フレーズ、イディオムの知識させあれば英会話は伸びる」と考えていらっしゃる方が非常に多いのではないでしょうか?

たしかに、これらはどれも非常に重要であることは間違いありません。しかし、これらさえあれば英会話が伸びると考えるのは早計ではないでしょうか。これを項目ごとに見て行くことにしましょう。

 構文、フレーズ、ボキャブラリー、イディオムの罠

構文、フレーズの罠

英会話のみならず、ライティングやリーディングでも構文やフレーズはもっとも重要な要素になります。ただ、これを会話の状況で確実に使いこなして行くためにはそれなりの徹底したスキルが必要になります。構文やフレーズを知識として知っているだけではほとんど使いこなせないでしょう。「構文やフレーズの知識さえあれば高度な会話も大丈夫だ」と考えるのは早計です。

例えば日本語で次のような発言があったとします。

「日本のマネージメントは非効率なので、効果的な戦略を出せないでいる」

これを英語で次のように言ったとします。

Japanese managements are inefficient. So they can't come up with effective strategies.

この発言は日本語では当然のように聞こえます。文脈と状況にもよりますが、何の説明もなしだとこれだけでは英語では意味が通りません。語彙の用法や文法が不適切だからではありません。

この発話では「日本のマネージメントは非効率」であることが当然の前提とされていますが、これが、価値観が異なる外国人も受け入れている認識である、という保証はまったくないのです。

価値観を共有しない人たちからすれば、「非効率とはどういうことなのか」分かりかねます。そ こで「非効率とはどういうことか?」と質問することになります。しかし、たとえば日本人の方は、「管理職が多すぎる」と答えると、外国人は「管理職がたく さんいることがなぜ非効率なのか?必要だからいるのではないのか?」と聞き返し、会話の堂堂巡りが始まります。

これを切りぬけるためには、

Japanese managements are inefficient in a sense that it takes too much time in making their decisions as they must take consensus among all people who are involved in the projects. Because of this, by the time they finish organizing their new strategies, it is often the case that business situation has already been changed and their new strategies are outdated.


日本のマネージメントは、プロジェクトにかかわっているすべての人間のコンセンサスを取るため意志決定に長い時間をかけるという意味で非効率だ。このため、新しい戦略が出る頃にはビジネスの環境が変化してしまっており、彼らの新しい戦略も時代遅れになっていることがよくある  

さて、上の発話では、日本語の意味内容が次のように細かく分解され、説明されています。  

「日本のマネージメントは非効率」
分解
「プロジェクトにかかわっているすべての人間のコンセンサスを取るため意志決定に長い時間をかけるという意味で非効率」

「効果的な戦略を出せないでいる」
分解
「新しい戦略が出る頃にはビジネスの環境が変化してしまっており、かれらの新しい戦略も時代遅れになっているケースが多い。」

さらにこの発話では、「プロジェクトにかかわっているすべての人間のコンセンサスを取る」や「意志決定に長い時間をかける」などの重要な要素が、「as」や「in a sense that」のような構文を使って、それぞれの要素の間の因果関係が明確になるように結び付けられています。「by the time that」や「it is often the case that」のフレーズ、そして「who」の関係代名詞も似たような役割をはたしています。

このように、構文やフレーズは発話を組み立てるための非常に重要なツールとなります。

しかし、上のような発話が日本で構築することが困難だったとしたらどうでしょうか?

もともと日本語でこのような発話を組み立てる 事がすでに出来ていないと、構文やフレーズの適切な使用はできないでしょう。空回りしてしまいます。つまり、これらを適切に使えない原因は、知識としてこ れらの使用法を知っているか知らないかではなく、これらを使うような細かで論理的な表現がもともと日本語で出来ているのかどうかにかかっているのです。もし「日本のマネージメントは非効率的なので、効果的な戦略を出せないでいる」が表現の限界でこれ以上細かく説明することが出来ないなら、いくら構文の使用法やフレーズを知識として知っていても、実際の使用は不可能なのです。

いわば、英語の構文やフレーズは、具体的で細かく、そして論理的にものごとを表現するためのツールです。したがって、こうした英語的な表現が出来るようになって始めて、これらを適切に使用することが出来るようになるのです。  

語彙、イディオムの罠

構文やフレーズで起こったことと同じことが語彙やイディオムでも発生します。語句の意味分解に関してはすでに初級のページで詳しく説明しましたが、ここではこれをさらに突っ込んで説明します。

語彙やイディオムの知識が重要であることは間違いありませんが、「ボキャブラリーさえ豊富にあれば高度な英会話は大丈夫だ」と考えることはとてもできません。英語の語句は抽象度が高くなり難し目になるほど使用範囲が限定され、という特徴があります。反対に日本語では、語句が抽象的になればなるほど個別の文脈には関係なく使用できる範囲が高くなる傾向があるようです。

これは、英語では言葉の意味がその時々の文脈に依存して決定されるのに対し、日本語では語彙の抽象度が高まるにしたがって、文の個別の文脈的意味から語彙の意味が独立してくることを表わします。

たとえば、日本語には「人間関係」「家庭環境」「人間不信」など多くの4文字、3文字熟語が使用されますが、これらの熟語は便利にできてお り、文脈に相対的に関係なくさまざまな状況で使えます。「職場における人間関係で問題がある」、「今、人間関係で悩んでるの」、「やっぱー、学校でも人間 関係よくしとかないと後で問題起こるよ」、「生徒間の人間関係をよく考慮し、生徒指導に勤めなければならない」、などあらゆる状況や文脈で「人間関係」と いう4文字熟語は広く使われています。

もしこれを「仲良くする」という、抽象度が低い言葉におきかえたらどうでしょう。そらくニュアンスとしてはこのほうが具体的なイメージを もっていますが、「職場において人と仲良くすることに問題がある」、「今、人と仲良くすることで問題があるの」、「やっぱー、学校でも人と仲良くしとかな いと後で問題起こるよ」、「生徒同士が仲良くすることをよく考慮し、生徒指導に勤めなければならない」など、意味が通るものと変な意味になるものが出てき ます。日本語では、「人間関係」のような4文字熟語であれば内容が抽象的なのでどんな文脈にもなじみ、このような問題は発生しません。

反対に英語は文脈依存が高い言語です。「職場における人間関係で問題がある」を「I have a problem with my human relationship at my work place」や「やっぱー、学校でも人と仲良くしとかないと後で問題起こるよ」を「If you don't have good human relationship with your friends, you'll have some problems later」 というよう、個別の文脈を考慮しないで同一の語句を使用すると、とたんに意味がわかりにくくなります。本来英語では、「human relationship」とは人間関係一般を言う場合にしか使えないので、心理学や精神分析の専門用語のような趣を持ってしまいます。

英語であれば、「職場における人間関係で問題がある」なら「I don't have good relation with my boss」かもしれませんし、「今、人間関係で悩んでるの」なら「I don't get along with my colleagues. That's causing me a problem」、そして「やっぱー、学校でも人間関係よくしとかないと後で問題起こるよ」なら「If you don't want troubles at school, you should make friends with everybody」くらいになるかもしれません。いずれにせよこうした表現では、「human relationship」という4文字熟語のような言葉で要約するのではなく、それそれの状況と文脈に合わせた表現を選びます。

これらの例では、日本語の「人間関係」は、「have good relation with」「get along with」「make friends with」のような、動詞、または、動詞化したフレーズに転換されています。このように、たいてい日本語の4文字、3文字熟語にあたるものは、英語ではその状況や文脈に合った動詞に転換されないと意味がなかなか通じません。これらの動詞が状況や文脈に合わせて選ばれているということでは、これらのものは「人間関係」という状況や文脈に関係なく使える熟語よりも、文脈依存度が高く具体的である、といえると思います。  

すべての罠が合体すると...

さて、これらの罠がすべて合体するとどのような発話になるでしょうか?つまり、話しの内容が構成されておらず、また、語句の意味分解を行うことなく、ただいたずらに構文や語句だけを使用するならどんな発話になるのでしょう?良く使いそうな日本語の具体例を見てみましょう。辞書にあった単語をそのまま使いました。  

日本語(OLの社内の愚痴)
課長は何事にもはっきりしない人なので、いつも迷ってばかりだからみんな頑張れないのよ。

未分解の日本語英語
My boss is a cold fish to all things, and he is always at a loss. So we can't bear down.

英語にしたときのニュアンス
私の上司はあらゆることに冷血漢で、いつも途方に暮れている。だから私達は押さえつけられない。  

これはいわば極端な例ですが、ポイントは明確になるでしょう。

ここの「a cold fish」には確かに「はっきりしない」の意がありますが、多くの英語の語句同様、これも適切な説明のある文脈で使用しない限り「はっきりしない人」の意にはなりません。このままではもっとも一般的な意味である「冷血漢」になってしまいます。意味はまったく通じないでしょう。

また、「迷う」を辞書で調べたところ「at a loss」とありましたのでそれを直接使ってみました。しかし、この語句は、適切に文脈設定しない限り「途方に暮れる」のほうが一般的な意味なのでここでは意味が通りません。「いつも途方に暮れている」とは何のことなのでしょうか。

さらに、「頑張る」を辞書で調べると「bear down」でしたのでそれを直接使ってみました。しかしこの言葉もその他の英語の語彙と同様、文脈に応じて表現を変えるか細かく説明しない限り「頑張る」の意にはなりません。一般的には「押さえつける」の意になってしまいます。
 

さらにこの文を、内容の論理的な整理や意味の細かな説明を行うことなく、問題の語句を別なものに置きかえることだけで対処したとします。

別な語句に置き換えた未分解英語
My boss is a blurred person to all things, and he always gets lost. So we can't brace ourselves.

英語にしたときのニュアンス
私の上司はあらゆることにぼやけ人間で、いつも道に迷う。だから私達はふんどしを締められない

ここでは辞書の類義語に単純に置き換え、「be blurred」「get lost」「be brace oneself」にしてみました。ボキャブラリーを変更したくらいでは意味の混乱にはまったく何の効果もないようです。ここまで来れば錯乱ですね。

次の、これに構文を付け足したらどうなるか見てみましょう。この文に当てはまりそうな「so that」を使いました。

未分解英語に構文を加える
My boss is so blurred to all things that he always gets lost. So we can't brace ourselves.

英語にしたときのニュアンス
私の上司はあらゆることにあまりにぼやけているので、いつも道に迷う。だから私達はふんどしを締められない

意味の混乱に何の変化も無いことが分かります。意味分解や内容の整理をすることなく、仮に語句や構文だけを他のものに置き換えたとしてもまともな意味にはならないでしょう。もともとの日本語があまりにも漠然としており、英語には直接なり得ないからです。

では、英語になるように意味を具体的に分解し、内容を論理的に整理したらどうでしょうか。

意味分解し内容を整理した日本語
課長は重要ではないことを決定するのにあまりに時間がかかるので、いつも仕事をうまく計画できないでいる。私達にどんな仕事をすればよいのか指示を与えられない

意味分解し内容を整理した英語
My boss takes so much time in deciding unimportant things that he can't effectively plan his job. He can't give us instructions of what we must do at work.

翻訳文としてはこれよりもよく整理され格好の良い文、また、英語としてよりナチュラルに聞こえる文はいくらでも考えられますが、言いたい内容が確実に理解されることを最優先にすると、会話では、とりあえずこのくらい整理され細かく意味内容が分解されていれば問題無く意味は通るでしょう。

お分かりのように、ここでは「はっきりしない人」が「重要ではないことを決定するのにあまりに時間がかかるの」となり、「迷ってばかり」が「仕事をうまく計画できないでいる」に、そして「頑張れない」が「私達にどんな仕事をすればよいのか指示を与えられない」に分解されています。さらに「so that」などの構文が使用され、意味の要素のあいだの論理的関係が明白になっています。


これで英語の実態が分かりましたか?ここで誤解を与えないために繰り返しておきますが、構文、フレーズ、ボキャブラリー、イディオムが重要ではないといっているのではなりません。これらの知識はどれも必要なものです。ただ、これの知識さえあればすべてが解決し、中級上級レベルの会話ができると思いこむことが危険なのです。上に説明したように、1)意味分解2)内容の論理的整理の二つが発話で出来ているという前提のもとで構文、フレーズ、ボキャブラリー、イディオムを使用すると始めて有効に使える、ということなのです。

次に、これを習得するには何が必要か、そしてその結果、学習者がどのように変化するのか次のページで見てみましょう。


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